「北海道日高の旅ぐらし」を体験する
ゲストハウス、できました

札幌から車でおよそ3時間、太平洋ぞいの国道を東に150kmほど進んだところに、わたしたちが住み暮らす浦河町(うらかわちょう)があります。日高地方のほぼ真ん中に位置し、人口は1万3000にちょっと欠けるくらい。緑がしたたる丘陵地帯には競走馬の牧場が点在し、谷には翡翠色の水をたたえた川がゆるやかに流れ、かなたには幾座も連なる日高山脈が青く光る。そんな小さな、しかしとても美しい町です。

浦河にはこれまで、国内外の旅行者やバックパッカーたちが気軽に、そして安価に宿泊できるゲストハウスがありませんでした。わたしたちはそのことを、ちょっと残念に感じていました。というのは、ゲストハウスは単なる宿泊施設であるだけでなく、コミュニケーションの場としても機能するからです。

今日はこんなところに行った。あんなことをした。こんなものを食べた。あんな人に出会った−−。その日あったできごとを旅人同士で情報交換する。共有する。そんなことができるスペースが浦河にあれば、この町の、ひいては日高の魅力をもっと広く、大きく発信できるようになる。それはどんなにかすばらしいことだろう。わたしたちはそう思っていたのです。

だからわたしたちは、2017年12月、ここ浦河にゲストハウスまさごがオープンしたことをとても喜んでいます。いうならばゲストハウスまさごは、わたしたちに望まれて生まれました。そしてこれからも愛されながら育っていく、そんなゲストハウスです。

北海道日高ならではの
「ストーリー」を感じてほしい

「ゲストハウスまさご」は、浦河町で半世紀にもわたって親しまれている銭湯兼ラーメン屋・まさごの二階にあります。このフロアは以前、サウナや家族風呂として使用されていましたが、2017年5月、設備老朽化のため閉店。かなり大きな規模のリフォームを経て、ドミトリーベッド22台、シングル・ダブルルーム3室、ファミリールーム1室のゲストハウスに生まれ変わりました。

ゲストハウスの内装は、地元の建設会社のほか、浦河町在住の若手クリエイターによる有志チームが担当。共有スペースのコンセプトは「地域の廃材や古材を使用し、地域の若手のセンスでストーリー性のあるリノベーションをすることで、あたらしい日高の価値・魅力を作り出し、伝える」。それはこの日高で、浦河で、わたしたちは、わたしたちの父母は、祖父母はどのように暮らし、どのように営み、どのように生きてきたかというストーリーをお伝えしたいからです。

だから、たとえば壁板は木製パレットを分解し、磨きなおして貼ったものですし、ドア枠は馬の厩舎、ダイニングテーブルには漁港で使用していた鮭箱を転用しています。また、家族風呂だった壁のタイルを少し残したり、壁や床の傷なども、あえてそのままにしているところもあります。こうした「歴史」の痕跡から、この地に永く住み暮らしてきた人たちの営為を感じ取っていただけたらと思います。

ラウンジには、地元の人たちもたくさんやってきます。ひと風呂浴びたついでに。いつもとは気分を換えて仕事したいときに。ちょっと様子を見に…。機会があればぜひわたしたちと世間話でもしましょう。あなたの見つけた「浦河」を、ぜひわたしたちにも教えてください。

長期滞在者に愛される町、
何度でも帰ってきたくなる場所

浦河は、体験移住者の多い町です。都市圏在住のかたに住宅をお貸しして、1週間、あるいは1ヶ月、3ヶ月と長期滞在していただくのです。この体験移住の制度を利用して、これまで多くのかたが浦河にお越しになりました。

その中には、作家やフリーランスのプログラマー、映像作家、漫画家などのアーティストやクリエイターも少なくありません。テレワークやアーティスト・イン・レジデンスの舞台として浦河は選ばれています。彼らは浦河で作品を、仕事を仕上げ、またその職能を活かして全世界に浦河の魅力を発信してもくださいました。

また、体験移住のリピート率も非常に高く、多くの方が浦河を再訪してくださいました。

浦河には、いわゆる大手資本による観光開発の手がほとんど入っておらず、だから観光地として「わかりやすく」パッケージされているものがありません。優雅なナイトライフを愉しめる繁華街もありません。にもかかわらず、多くのかたが一度きりの滞在だけでは飽き足らず、その後も二度、三度と浦河を再訪し、滞在してくださるのです。それはいったいなぜでしょうか。

手つかずの自然が四季折々に美しい表情を見せること。比較的温暖で雪が少なく、年間を通して過ごしやすい気候であること。美味しい食材がリーズナブルに入手できること。トレッキングや乗馬、山菜採りや釣りなどのアウトドア・アクティビティが充実していること…。理由はいろいろといえます。でも、こうしたことはあくまでも浦河のほんの一面にすぎません。

では、いったいなぜなのか。わたしたちはこんなふうに考えます。まさに長期滞在することによって、旅行者の「目線」が生活者のそれに変化するからではないか、と。

ゆっくりと、暮らすように
日高を旅してほしい

おそらく大部分の人にとって、旅行とは「点を線でつなぐもの」です。Aという土地を観光して一泊したら、次はBに移動してまた一泊、そして帰宅、というような。

ところが長期滞在をするとどうでしょう。たとえば現地の食材で自炊してみたり、「普通の」観光客なら行かないところに行ってみたり、それなりの人間関係が生まれたりといった、まさに生活者目線の体験をすることになります。

すると、それまで点だったものがやがて面になり、ひいては立体となり、その土地のことが奥行きをもって理解できるようになる。従来の「点と線」型の旅行では見過ごされていたものが目にとまるようになる。それはかつてないほど新鮮な感覚です。だから何度も訪れたくなるのです。じっさい、体験移住のリピーターは口を揃えておっしゃいます。「じっくりと腰をすえて滞在したからこそ、浦河の本当の魅力が見えてきた」と。

だからわたしたちはあなたに、できることなら滞在型の旅をしてほしいと思っています。浦河を拠点に日高のあちこちを、あたかも暮らすように旅して、この土地の面白さをあなたならではの視点でじっくりと見つけてほしい。そして満喫してほしいのです。

そして、できればあなたもリピーターになって、何度でもわたしたちに顔を見せてほしい。このゲストハウスがそういうきっかけをつくり、そして支えることのできる場になれたら、と願って止みません。わたしたちは、このゲストハウスが、さまざまな人の交流の場となることを心から願っています。

GUEST HOUSE MASAGO 改築工事チーム

大谷建設工業株式会社(総合建築)、株式会社 武田電機(電気設備)、ムラカミ設備(給水、給湯、排水、暖房、ガス設備)、株式会社 長嶺設備工業(換気設備)、有限会社 永平製作所(建具)、有限会社 伊藤塗装店(塗装)、本多タタミ表具店(内装仕上げ)、RBST(内装デザイン)、有限会社 ダスキンサラブ(美装)、株式会社 大野木材(資材)、M・コミュニティデザイン室(設計)、小野寺千穂デザイン事務所(グラフィックデザイン)、株式会社ユートライン(事務)